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『新しい自分の発見』

                                  ペンネーム:ひさみ

挿絵_01 ひょんなことから先輩の勧めで短歌を作り始めることになった。景色を見つめて感動したポイントを5・7・5・7・7の31文字で表すのだが、これがなかなか難しい。

 元来「花より団子」の性分で、桜が咲けば花見弁当や屋台を連想するほど美的感覚の乏しい私。「短歌を作れば、人の気持ちを理解できるようになるよ」と半ば強引に誘われ、しぶしぶ始めたものの、〈嫌だなぁ〉〈いつやめようかなぁ〉と思いながらの作歌だから、良い歌なんかできるわけがない。毎月、同人誌投稿の締め切り直前に、先輩から短歌の添削を受ける有り様だった。

 そんな私に先輩は、「仲間を見つけて、毎週3首ずつ短歌を交換し合えば、締め切りに追われることもなくなるよ」と勧めてくれた。月に6首を作るのがやっとの私に、週3首もの短歌などできるのだろうかと最初は戸惑ったが、たまたま同世代の友人も短歌に取り組んでいたので、その友人を誘って短歌の交換を始めた。

 毎週3首の短歌を作るには、いつでもどこに行っても辺りの景色を眺めなければ、感動なんてそう生まれるものではない。外に出れば山を眺め、花が咲いていれば足を止め、夕暮れ時には沈む夕日や茜色に染まった雲を気持ちを入れて眺めるようになった。

 秋も深まり、木枯らしが吹き始めたある日、並木の桜にふと目が行った。すっかり葉が散り落ちてしまった桜を見つめていると、その細い枝に堅く小さな蕾をつけているではないか。〈桜の蕾はこんな早い時期からついていたんだ〉――季節の移ろいと自然の摂理を感じた瞬間だった。

 〈自然って、おもしろいな〉「俺って、自然を眺めるの、結構好きかも」――短歌を始めて5年、新しい自分の発見だった。

 どんなことでも一生懸命続けているうちに、それまで知らなかった自分の意外な一面に気付く。「新しい自分」――それは、誰にでも見つけられるはずだ。

  
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