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『パイナップル』

ペンネーム: 伊賀みつ

パイナップルが厳(いか)めしい。数日前に知人から頂いたのだが、切り方を知らない。食べごろの日にちは迫る。妻はひと月ほど大阪に行っており、留守をしている。


不慣れなスマートフォンで、『パイナップルの切り方』と検索する……。出てきた動画の多さに拍子抜けした。そして、見よう見まねで果実を切り出した。やればできるじゃないかと自画自賛。いやいや、文明の利器のお陰でしょとそこはツッコむ。


切り落としたばかりのパイナップルの葉先を生ごみに捨てようとしたのだが、逆さまにして白い皿に乗せてみた。中心部分の果実をかき出すと円錐状になり、ヨーグルトを流し果実を掛けてデザートヨーグルトが完成。某外食チェーン店なら、税込みで550円はするであろうとほくそ笑み、写真を妻に送信した。


妻は、レトルトのご飯やカレー、冷凍食品などを数日間分用意してくれていた。しかし、自分で料理をしてみようと思ったのだった。

米を研ぐのは何年振りか。アジフライにから揚げ、パクチーとシメジのパスタはもちろん初挑戦。まさかのハンバーグまでもこしらえた。楽しみながら創意工夫をしながらの料理が続いた。

妻が無事に帰宅し、冷凍していたハンバーグを焼いて食べてもらった。妻は笑顔で、「すごーい……」とつぶやいた。

 


『平和の種は心の中に』

ペンネーム: つぐみ

ある日、休憩室のソファーの上にジャケットがぐちゃぐちゃに脱ぎ捨ててありました。次の日もまた次の日も脱ぎ捨ててあるのを見るにつけ、みんなが使う場所なのに汚らしくて嫌だなあという思いが強くなっていきました。そしてその持ち主は私が一番苦手とするAさんであることを知るや、不足もピークとなり、それをこそっと端のほうに押し寄せてその場を立ち去りました。


しばらくすると、「誰ですか?私の服を勝手に!!」とすごい剣幕で怒鳴っているAさんの声が聞こえてきました。私が「いつも片付いていないのが気になっていたので……」と言うやいなや、「なら何でその時に言ってくれなかったんですか! だまってされたら傷つきます!!!」という言葉に私が「言えないから困っていたんじゃないですか……」と言い返すとプンプン腹を立てて出て行ってしまいました。その様子を見ていた同僚たちは、「当たり前のことをしただけだから放っておいたらいいよ」と口々に慰めてくれましたが、なんか後味が悪くてしかたがありません。そんな時上司が「次に出会った時が肝心だよ。Aさんは癇癪を起こしてしまったことをきっと後悔しているだろうから、一番に気持ちよく声をかけてあげたらいいよ」と、アドバイスしてくださいました。


その夜「よ~し!! 明日はこちらから明るく声をかけよう」と腹を決めると、不思議なくらいにその時が待ち遠しくなりました。


そして“運命の時”、「Aさ~ん! おはようございます。昨日はごめんなさい」とにこやかに声をかけました。するとAさんからも信じられないくらいとびっきりな笑顔を添えて「おはようございま~す」と挨拶が返ってきました。


安堵とともに、喜んですることの醍醐味をかみしめたことでした。


なんてったって驚くほどにAさんと心通う素敵な瞬間(とき)となったのですから。

 


『もう少し大丈夫?』

ペンネーム:Gocoo

アメリカに赴任して1年3か月がたつ。日本にいるときにアメリカでの生活をイメージするといろいろなことが思い浮かんだが、その中の一つに広い家と緑の芝生があった。今の我が家にもそれなりの広さの芝庭がある。
前の住人から引き継ぐときに、週に一度は芝刈りをした方がよいと言われた。そこで、慣れない手つきで芝刈り機をあやつり、何とか芝の手入れをしていた。

そんなときに、アメリカでコロナウィルスのパンデミックが起きた。アメリカでの生活に慣れることに必死だったところに、仕事の状況も一変し、気分は芝刈りどころでは無くなった。 ときどき芝刈りのことを思い出すのだが、<まだいいかな><もう少し大丈夫かな>と先延ばしにしていたら、芝生の庭が雑草だらけになってしまい、<しまった>と思ったが後の祭り。それからは知人に尋ねたりインターネットで調べたりしながら一生懸命芝生の回復に努めた。


この辺りは雑草の成長も早く、黄色いタンポポの花を<きれいだなあ>などと眺めていたら、種を飛ばしてあっという間に増えていくとも書いてある。それだけでなく、多くのアメリカ人にとって、芝生の庭は思った以上に大事な存在であること、芝庭の状態が地域の資産価値に影響を与えることさえあることを知った。 芝生の回復には半年以上かかった。それでも、その間に除草の仕方や肥料のやり方などを勉強し工夫しながらしていると、芝が可愛くなり手入れがおもしろくなってきた。


朝晩、近所の人たちが犬の散歩などで我が家の芝生の前を通る。去年はその人たちに<この庭は手入れができていない>などと思わせていたかもしれない。今年は手入れを行き届かせて、近所の人たちがコロナのことを少しでも忘れて、いい気分で散歩をしてもらえるような、そんな芝生にしたいと思っている。

 


『世界をめざして』

ペンネーム:うなぎいぬ

そばを通り過ぎようとした時「お客さんが来たので、お茶入れて」と課長の声。“え~私のこの荷物見て分からないんだろうか?”とムカッと頭に来て、もう少しで声に出すところだった。雑誌社に入って私は雑用ばかりの日々! その日も先輩に頼まれた書類を手にいっぱい持っていた。いつかみんなに喜んでもらえるファッション雑誌をこの手で作るんだ! と入社したのだから……とこの時も、書類を課長の机の上にドンッと置いてしぶしぶお茶をいれた。




先日もやっと原稿の清書をさせてもらった時、何度も何度も変更があり、すぐに切り替えができず、腹が立って、しまいにはその場から逃げ出したくなった。



ある時、仕事が重なった上に飛び込みの仕事があり、“そんなに一度にできますか~!”という気持ちになって、頼みに来た先輩に対して「ムリです!」と言ってしまった。すると、先輩はあっさりと「じゃあ、違う人にやってもらうわ」と……。チーン! あまりのあっさりさに悲しくなり“私じゃなくても替わりがいるんだ~!”と、しばし落ち込んだが、勝気な私は“いやいや私を使ってください!”と謝りに行った。


それから、仕事が重なっても、追加や変更があっても、飛び込みの仕事を頼まれても、進んで快く受けるようにした。時間が制限されたときは、「今、急ぎの要件があるので、その後でもよろしいでしょうか?」と、はっきり表現して尋ねるようにしたら、仕事が楽しくできるようになった。



私の夢は、世界中の人に感動してもらえるようなファッション雑誌を出版すること!

資料を運ぶのをちょっとやめて湯茶室に走る時……

慣性に流されず予定外の仕事に興味を持って向かう時……

どんなさ細なことでも、喜んで! 楽しんで! 挑戦していくことが、いつかきっと世界中の人達に喜んでもらえる雑誌を出版することにつながるのではないかと思い直した私は、新しい人生の始まりを予感できるのだった。