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愛はコミュニケーション

『表現コンプレックス』

ペンネーム:鉢かつぎ

 「何で黙っているの?」子供の頃、周りの人からよく尋ねられた。

 「もっと表現しなさい」と言われると、ますます何も言えなくなる。言いたいことがうまく言えない。気持ちを伝える言葉を思いつかず、頑張って表現しても伝わらずに誤解されてしまう。すると何だか怖くて何も言えなくなる。「表現しなさい」と背中を押されるが、言葉はどこかに隠れて見つからない。沈黙の時間だけがどんどん先へ行ってしまい、どうしていいか分からない。そうこうしているうちに、もう伝えたかったことも思い出せないので黙っていると、「表現しなさい」とせき立てられて固まってしまい、今度は「どうして固まるんだ」と叱咤激励が飛んできて……そう、まるで必要以上にクリックし過ぎてフリーズしてしまう、パソコンのよう……。

 「カチカチカチッ」と指先にいら立ちの感情を込めて、矢継ぎ早な催促をしてしまい、その結果、ウンともスンとも言わずに固まってしまうパソコン。けれど、人と違うパソコンの良いところは、決して悩んだり自己卑下したりしないところだ。

 大人になった私は、パソコン同様に「カチカチカチッ」と小学生の子供にも接してしまって後悔することがある。こちらの一方的な「カチカチカチッ」のせいで、沈黙の理由が聞こえなくなってしまうからだ。

 表現を要求するのは相手の都合だから、別に悩むことはない。固まってしまう自分を情けなく思うこともない。なんてことはない、リセットしてもう一回起動すればいい。いつでも何度でもめげないで。その時ついでに“コンプレックス”もごみ箱に捨てちゃえばもっといい。ごみ箱を空にすると身も心も軽やかに、動きがしなやかになる。人もパソコンも、もう固まらなくて済むはずだから。

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