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愛はコミュニケーション

『海辺の思い出』

ペンネーム :つぐみ

 夫の母は、昔から自他共に認める元気が取り柄の陽気な“大阪のおばちゃん”。それにも増してとても負けず嫌いときているので、ちょっとでも年寄り扱いしてしまうともう大変。

 昨年の夏、その母を誘って和歌山までドライブに出かけた時のこと。

 海岸線を走って、千畳敷と呼ばれている有名な観光スポットにたどり着いた。あまりにも美しい景色に母はたいへんな喜びようで、夫の手にするカメラに向かって大はしゃぎ。「海辺まで降りて行ってみたいわ?!」と言い出したかと思うと、あっという間に靴を脱いで裸足になってしまった。

 「おいおい、おふくろ?、ここから先は足場が不安定だから危ないよ。滑ったら大変だからやめておけよ?」という夫の言葉に、母の顔色が変わってしまった。また年寄り扱いされたと感じたようでとても悲しそうな顔になった。

 うわぁ?気まずいなあ?。こんな時、嫁の私は……???

 そうだ!!とひらめいて、「お母さん!手をつないで一緒に行きましょうよ?」と声をかけてみた。すると夫が、「それならばお手を拝借?」とおもしろおかしく母の手を取ったものだから、あっという間にすっかり和み、おかげで仲良く歩き出すことができた。

 波打ち際にたどり着くや、母はチャプチャプと片足ずつ海につけ始めた。

 「一度でいいから、こうして海に足をつけてみたかった。ここまで連れて来てくれてありがとう、ありがとうね?!!」とつぶやくと、しみじみと語りだした。街中でしか暮らしたことのない母は、生まれてこのかた海に入ったことなどなかったらしい。そんなこととはつゆ知らず、危うくもう少しで母の喜びを奪い取ってしまうところだった。きっとまだまだ他にもいっぱいあるんだろうなあ、やってみたいことって!と、母の気持ちに思いをはせながら、一つでも多く願いをかなえてあげたいと思ったことだった。

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